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神戸に関連する/しない新聞記事をスクラップ。神戸の鉄ちゃんのブログは分離しました。人名は全て敬称略が原則。

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小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明

パニック回避の代わりに彼らが失ったもの
2011年5月27日 金曜日
小田嶋 隆
~~~~

 東京電力は、2011/06/15、福島第一原子力発電所の1号機について、以下の発表した。すなわち、2011/06/15現在の暫定的な解析結果によれば、1号機は、地震発生から16時間後には燃料の大部分が溶融・落下する、いわゆる「メルトダウン」の状態に陥っていた可能性が高いというのだ。

 続いて、2011/03/24には2号機と3号機がメルトダウンしていたことも認めている。東京電力がまとめた報告書によれば、1~3号機のすべてで、燃料棒はほぼ完全に溶融・落下し、原子炉圧力容器には穴が開いている。1号機と2号機については、格納容器にも損傷が及んでいる可能性がある。なんということだろう。

 メルトダウンが起こってから、それを確認するまで2カ月以上が経過していた計算になる。

 なるほど。
 東京電力が、震災以来、事態を把握していなかったのだとすると、この2カ月の間、われわれは行き先不明のバスに乗っていたことになる。計器はめちゃめちゃで、ドライバーは意識不明のままハンドルの上に突っ伏していたわけだ。

「方向とスピードはわかりませんが、走行中であることは確認済みですのでご安心ください」
 と、バスガイドは言う。私は安心できない。当然だ。
「飛び降りると怪我をしますよ」
 そうかもしれない。でも、乗っていれば、いずれ何かに衝突するんではないのか?
 いや、彼らとて、いくらなんでも、ある程度は状況を把握していたはずだ。そう考えるのが自然だ。だって、専門家なんだから。ということは、結局、東京電力および政府の事故対策本部は、事態の収拾をはかりながら、メルトダウン発表のタイミングを推し量っていた。そう考えた方が、多少は安心できる。
 でも、それはそれで別の問題が生じる。
 この前提だと、東京電力はウソをついていたことになる。でなくても情報を隠蔽していた、と、これはこれで後味が悪い。われわれは、今後、彼らの発表について、すべて裏読みせねばならなくなる。

 本当のことを言うと、私は、自分が驚いていないことに驚いている。
「メルトダウン?」
 発表を聞いた時、私は、落ち着いていた。
「それより松坂のヒジは大丈夫なのか?」
 ぐらいの力加減だ。

 もしかして、狙いは、ここにあったのだろうか。
 つまり、彼らは、国民の危機意識が麻痺するタイミングを待っていたわけだ。
 事実、「驚く」ということに関する私の閾値は、2カ月前に比べれば1兆倍ほどに上昇している。
「ほう。原発の港湾内に滞留している汚染水が14兆ベクレル、と」
 私は驚かない。
「それより浦和レッズの5試合連続未勝利はどこまで続くんだ?」

 人は驚き続けることができない。
 びっくりし続けた人間はじきにぐったりする。

 政府および東京電力の情報開示の遅れについて、メディアには、批判的な声が溢れている。
 が、一部には、政府の情報コントロールを擁護する声もある。
 というよりも、メディアの人間は、内心では、「情報はコントロールすべきものだ」というふうに考えている。
 なぜなら、彼らは、自分たちが情報コントロールの専門家であると自負しているからだ。

 別の見方をするなら、メディアが政府に対して情報の開示を要求するのは、情報の制御が権力の作用そのものであることをよく知っているからだ。彼らの考えでは、情報にかかわる権力は、政府にではなく、メディアの手の内にあって然るべきなのだ。

 で、彼らが情報を握ったら?
 もちろん、無条件で情報を開示したりなどしない。
 情報を持った人間は、必ずそれをコントロールしようとする。
 カネを持った人間が地面にそれをばらまかないのと同じことだ。

 果たして、2・3号機のメルトダウンが発表された翌朝のワイドショーで、キャスター氏は、皮肉っぽい口調で、以下のように述べた。
「でも、地震直後の段階でメルトダウンが発表されていたら、われわれはどう受け止めたんでしょうかね」
「果たして、パニックを起こさずに落ち着いて対応できたのかどうか。疑問ですよ」
 なるほど。「われわれ」という主語を使ってはいるが、彼は、視聴者を信用していないのだな。本当のことを言ったら、国民はあわてふためくぞ、と。風車に吠える犬みたいに。

 今回は、パニックについて考えてみたい。
 震災以来、「パニック」という言葉が安易に使われている気がしてならないからだ。
 この言葉を使う人々は、パニックの担い手として「愚民」を想定している。
 無知で、小心で、付和雷同型で、情報弱者で、他人指向型の庶民。そういう漠然とした群衆を思い浮かべた上で、彼らはこの言葉を使う。

 「ポピュリズム」「風評被害」といったあたりの述語も同じだ。これらの言葉を多用する人たちは、民衆が無批判で無知蒙昧であることを議論の前提にしている。メディアもそうだ。というよりも、メディアの人間が一番強くこのことを信じているのかもしれない。彼らは、自分たちの情報の受け手が、自前の判断力を欠いた昆虫みたいな人々であるというふうに考えている。のみならず、情報の送り手である自分たちは、受け手である一般大衆よりも上位に位置する存在で、それゆえに、自分たちメディアの人間は、受け手をコントロールできるつもりになっている。うん。被害妄想かもしれない。でも、私はテレビ画面に出てくる人間の口から「パニック」という言葉を聞くと、その度に、微妙に不愉快な気持ちになるのだよ。どうしても。「君たち愚民にはわからないだろうが」と、液晶画面の行間で、彼らがそう言っているように聞こえるからだ。

 2011/03/12ないしは03/13の段階で、炉心の全面的な溶融・落下と格納容器の損傷が額面通りに発表されていたら、私はおそらくあわてていたはずだ。
 どこかに逃げようと考えたかもしれない。実際に切符を買いに行った可能性もある。
 と、みどりの窓口には、同じ考えの群衆が行列を作っていて、その行列の長さに苛立った幾人かが、改札の強行突破を試みたかもしれない。
 政府の人々が想定していた「パニック」というのは、こんな景色のことを言うのだろうと思う。
 実際、その種のパニックが起こった可能性は皆無ではない。
 暴動や略奪は起こらないまでも、株価の暴落ぐらいのことは十分に起こり得たはずだ。

 でも、発表の直後に、東日本の各地で、若干の混乱があったのだとしても、事態の進行が、現状と同じように膠着状態で推移していたのだとすれば、当初のパニックは、状況の停滞とともに沈静化していたはずだ。
 それどころか、地震発生直後の段階で、「最悪の予想から得た情報」が共有されていれば、以後の国民感情はむしろ肯定的な方向に流れたかもしれない。
 少なくとも、現場に踏みとどまって事態の処理に当たっている東京電力の関係者には、今よりももう少し大きな信頼と賞賛の声が寄せられていたはずだ。
 そう考えれば、情報開示の遅れ(あるいは隠蔽)は、適切な処置ではなかった可能性がある。

 政府の人間は、「発表を遅らせたおかげで、不要なパニックを引き起こさずに済んだ」というふうに考えていることだろう。
 メディアの中にも内心でそう考えている人々は少なくないと思う。

 しかしながら、政府および東京電力は、初期の混乱を回避した代わりに、もっと大切なものを失っている。この点を見逃してはならない。

 「真実」のもたらす「驚き」や「恐怖」は、なるほど、深刻なパニックをもたらす場合がある。パニックに陥った民衆は、不安に駆られ、あるいは怒りに身を任せて、短兵急な行動に走ったかもしれない。あわてふためき、群集心理に陥り、将棋倒しのように自滅する……と、そう考えれば、政府の人間にとって、国民のパニックは恐ろしい不確定要素に見える。

 が、一部のおっちょこちょいが過激な行動に出たのだとしても、実際のところ、驚愕や恐怖は、そんなに長続きのする感情ではない。不安も怒りも同様だ。時間がたてば沈静化する。何らかのきっかけで、暴徒化した民衆がそのまま革命運動に走るのは、政府に対する不満が蓄積していたからで、普通に治まっている国の政府であれば、少々のパニックでひっくり返ったりはしない。

 しかしながら、「不信」は違う。これは長続きする。というよりも、一生涯続く。政権にある者がひとたび国民に不信感を抱かれたら、信頼を取り戻すことは不可能に近い。

 政府および東京電力は、これまでの一連の情報コントロールを通じて、あるいは、国民の突発的な怒りや、驚きや、爆発的な不安の高まりを回避し得たのかもしれない。が、その代わりに、国民全般に根の深い「不信」を植えつけることになった。端的に言って、彼らは信頼を失ったのだ。

 この取り引きは、長期的に見て大きな赤字になるはずだ。今後、このマイナスは、ますます取り返しのつかない結果を招くことになるだろう。
 もっと悪い予測を述べるなら、パニックは、むしろ、この先にやってくる。
 というのも、同じパニックでも、破局的な情報に対する短期的な反応としての動揺よりも、情報源そのものへの不信に源を発する底の知れない不安の方が、より厄介で排除しにくいものだからだ。

 原発事故以来、日本にいる外国人が帰国する事態が続いている。
 「帰る国があるから」というふうに説明することも可能だが、私の思うに、外国人が帰国を急いだのは、彼らが政府の発表を信用していないからだ。
 外国で生まれた人たちは、放射能のような国家規模の判断が介在する出来事に関しては、最大限の安全率を確保した上で行動する。
 権力側の人間は、どうせ自己保身しか考えていない、と、きびしい歴史を生きてきた国の人間は、生命にかかわる情報については、政府の情報を信用しない。

 特に中国の人々は、公式なルートを通じて発表されるデータをほとんどまったく信じない。
 だから、日本政府が「東京は大丈夫だ」と言っても耳を傾けない。中国の政府が同じことを言っても、無論のことハナもひっかけない。日本にいる中国人自身もそうだが、なにより本国にいる彼らの家族が、政府の発表を強烈に疑っている。だから、なにがなんでも帰って来いと言う。
「イノチはひとつだけだよ」
 と。

 韓国の人たちの反応も印象深かった。
 福島第一原発で水素爆発があってからひと月近くが経過した2011/04/07、震災以来のはじめての雨天となった韓国では、放射能を含んだ雨を警戒して休校する学校が続出していた。聯合ニュースによれば、休校はソウル近郊の京畿道で126箇所にのぼったという。あわせてプロ野球の試合4試合も中止されている。ソウルよりもはるかに近い東京や新潟で、まったくその種の過剰反応がなかったにもかかわらず、だ。

 これらの近隣諸国のパニックは、「情報の開示」がもたらしたものではない。
 逆だ。むしろ公式情報の欠落を埋める「不信感」が招いたものだ。
 韓国の政府は、原発事故発生以来、事故の影響がただちに自国に及ぶものではない旨を繰り返しアナウンスしていた。が、国民は政府の発表を鵜呑みにしなかった。で、雨とともにパニックを起こしたわけだ。

 わたくしども日本国民は、一般に、中韓のみなさんに比べれば、政府に対してより深い信頼を寄せている。それゆえ、情報不信からパニックに至る傾向はより小さい。政府を信頼することが賢い処世であるのかどうかは簡単に判断できることではないが、ともかく、そのわが国民に特有な、お上への信頼が、この度の事態を通じて、急速に失われつつあることはどうやら確かで、このことは、少なくとも政府にとっては、非常に大きな痛手であるはずなのだ。

 思うに「パニック」という言葉の影に隠れて、情報の開示を遅らせてきた面々が恐れていたのは、パニックそのものではない。
 彼らが回避せんとしていたのは、なによりも自分が「矢面に立つ」ことだった。だから、どうしてもメルトダウンを公認しないと辻褄が合わなくなるギリギリまで、発表を引き伸ばしたのだ。
 気持ちはわからないでもない。私も、本当のギリギリのデッドラインが来るまでは、ワープロに向かうことができないタイプの書き手だからだ。

 気象予報士だって、たとえば雨天の到来を期して職を辞さねばならぬ条件下で勤務しているのであれば、容易に降雨を認めないはずだ。彼は精一杯抵抗するだろう。
「空気中の水蒸気が突発的に水滴化する事象が観察されてはいるものの、まだ降雨と呼ぶには足りない」
「一部において粒子の大きい霧が発生しているのは事実だが、全体的な観察からすれば、必ずしも雨天という認識には至っていない」
「地面への降水という局面に限って言うなら、ご指摘のとおり、土砂降りに近いデータは当方の観測所においても報告されている。しかしながら、豪雨という言い方は無用の混乱を招くので、この際、排除したい。断続的な空中水結晶の落下およびそれらの結果としての地表面への浸水というふうに理解している旨を申し上げてご報告にかえさせていただく」

 そういえば、今は亡き赤塚不二夫の名作「もーれつア太郎」の父親は、熱狂的な中日ファンで、中日が負ける度にテレビを壊していた。そして、
「となりのテレビを見てこい。中日が勝ってるかもしれない」
 と言って荒れていたものだった。愛嬌のあるおやじだった。

 東京電力の技術者や、保安院の学者さんたちも、おそらく、似たようなものだった。
 彼らは、信じやすい数値を表示している計器をだけ信頼し、想定の範囲を超えるデータを指し示す計器は、「壊れている」と考えて、無視した。
 専門家だからこそ読み間違えるということがある。
 通常の範囲のデータだったら、彼らとて読み間違えることはない。
 が、自分の座っている木の枝を切り落とすみたいなタイプの、前提を覆すレベルのデータは、やはりどうしても読み取ることができない。
 何十年も研究してきた学問が無意味だったとか、半生をかけて取り組んできた自分の研鑽の結果が忌まわしい毒のカタマリに化けていたといったような事実は、能力の問題とは別に、一人の人間として、容易に承認できるものではなかったのかもしれない。まあ、好意的に考えればだが。

 情報開示が遅れた本当の理由はまだわかっていない。
1.東京電力が事態を把握していなかった。
2.東京電力が情報を隠していた。
3.東京電力と政府がグルになって情報を隠していた。

 これらのうちのいずれが最も真相に近いのであろうか。
 伝言ゲームのスタートとゴールのところで、伝言の内容が食い違っていたのだとして、結果の違いは誰にでも分かる。が、いったい誰が情報を伝え間違えた(あるいは聞き違えた)のかは、全員の発言をすべて検証しないとわからない。ということはつまり、真相は、最後まで分からないのかもしれない。でも、誰かが責任を取らなければならない。

 ロシアン・ルーレットみたいだ。
 フクシマ・ルーレット。
 うん。笑えない。ルーレットはまだ止まっていないのだし。

 情報のコントロールに政府が関わっていたのだとすると、彼らが恐れていた「パニック」というのは、具体的にはどういう事態だったのであろうか。

 私の憶測を述べる。
 政府の人間が心配していたのは、株価の暴落だとか、首都圏における消費活動の空洞化とかいった、いずれにしてもカネにかかわる問題だ。
 命がけの場面で、あの人たちは、金勘定をしていたわけだ。
 で、狼が来るという噂で街が空っぽになるのを恐れて、
「あれは犬ですよ」
 という情報を流し続けていたのである。
 で、いまになって、
「あれは、実は狼でした」
 と言い始めている。
「でも、大丈夫。鎖でつないであるから」
 と彼らは言っている。
 私は信じない。
 あまりにもすべてがくさりきっているから。
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