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神戸に関連する/しない新聞記事をスクラップ。神戸の鉄ちゃんのブログは分離しました。人名は全て敬称略が原則。

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間違いだらけ!「国民共通番号制」の議論を斬る
大前研一の日本のカラクリ
<プレジデントロイター 実践ビジネススクール 2010/08/16>

◆サイバーゼネコンに牛耳られた住基ネット

 税金や年金など社会保障に関する個人情報を一つにまとめる「国民共通番号制度」導入に向けた検討作業が進んでいる。
 2010/02に大臣クラスによる「共通番号制度に関する閣僚級検討会」が発足、2010/06末には素案ともいえる中間報告が発表された。
 それによると、使用する番号には3つの案がある。具体的には、(1)基礎年金番号、(2)住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)上の住民票コード、(3)新たな番号の創設、だ。中でも(2)の住民票コードを活用して新しい番号を割り振る案が最も有力視されている。共通番号の利用範囲についても、「税金のみ」「税金+年金などの社会保障」「幅広い行政分野に利用」という3つの選択肢から絞り込んでいくという。

 私はこの問題について、かねてからこう提唱してきた。
 国民全員にID番号を持たせ、税金や社会保障のみならず、運転免許証や健康保険証、パスポート、厚生年金手帳から印鑑登録証まで、あらゆる個人情報を一つのIDで一元的に管理するコモンデータベースを構築すべきである――と。
 したがって共通番号制度の導入に異論はないが、中間報告で示された方向性には正直、賛同できない。

 まずシステム面で問題なのは、住基ネットの活用を優先することだ。

 そもそも基礎年金番号は国民全員が持っていないし、新しい番号の創設は時間もコストもかかる。全国民に固有の番号が割り振られている現行の住基ネット・住民票コードを使うのが一番効率的だという。
 しかし住基ネットは、各自治体がサイバーゼネコンの食い物にされてバラバラにシステムをつくった。構築費は何と805億円であるが、そこに収容されている情報は約10ギガバイト。二層式DVD1枚に収まる程度であり、その運用に年間190億円もかけている。しかし利用率は0.7~1.0%であり、政府のつくり出した無駄の中でも突出したもの。当然かなり幼稚な連中がシステム設計しているので融通が利かないし、後述する拡張性にも技術的な限界がある。

 日本の電子政府の基となる汎用的なデータベースをつくるのであれば、当然最新の技術とシステム要件を満たしたものをゼロからつくるほうが安いし早い。過去の過ちと恥の上塗りだけは避けなくてはいけない。

 また利用範囲については、「税務」と「社会保障」だけに留めるのではなく、もっと広範囲で考えるべきだろう。

 先進国の番号制度について見てみると、最も進んでいるのはスウェーデンと韓国。この2国は、「税務、社会保障、住民登録、選挙、教育、兵役」のすべてを共通番号で管理するオールインワンの制度になっている。イタリアは「税務、住民登録、選挙、兵役」、オランダは「税務、社会保障、住民登録」、アメリカは「税務、社会保障、選挙」、イギリスは「税務、社会保障」、ドイツは「税務」のみの対応である。
 こうして見ると、共通番号は税務、社会保障だけではなく、幅広く「社会歴」全体に利用範囲を拡大することが可能だとわかる。
 さらに個人の既往症やアレルギーなどの「医療情報」を加えれば、利便性はぐっと高まる。私のようなアレルギー持ちは病院から嫌がられる。治療に使える薬剤かどうか、いちいち主治医の確認を取らなければならないからだ。IDから既往症やアレルギーの情報をすぐに引き出せるようになれば、医療現場でもより迅速な対応が可能になる。


 共通番号制度は2011年の通常国会に関連法案を提出、準備期間を経て早ければ2014年の利用開始を目指すというが、この際ゼロベースで3つのことを考えるべきだと思う。

 一つは、共通番号にしてどういう公共サービスを国や自治体が行うのか、その大前提を決めることだ。

 そもそも国民に番号をつけて何をやりたいのか、原点に立ち戻って考える。
 国民の義務と権利は何か。それに対して国や都道府県、市町村はいかなるパブリックサービスを提供するのか。一つのIDにまとめるという決意のもとに、すべてを洗い出すのだ。

 前述したように、私が十数年前から提唱している「コモンデータベース法」(詳細は『新・大前研一レポート』講談社刊)は、パスポートや運転免許証、健康保険証、厚生年金手帳、印鑑登録証、さらに医療情報や交通事故の履歴まで、すべての情報を一元化して、ICカードにして各人が持つというもの。国民は 1枚のICカードで、すべての行政サービスが受けられることになる。これにバイオメトリクス(生体)認証を組み合わせれば、あらゆる行政上の手続きが自宅のパソコンでできるようになるから、利便性は格段に向上する。

 また共通番号を活用すれば、選挙制度の電子化も一気に進められる。現状は立会人のいる投票所にわざわざ足を運んでタッチパネルなどで投票するだけで、とても電子投票と呼べるような代物ではない。しかも住基ネット同様、サイバーゼネコンの言いなりになって市町村ごとに独自の投票システムを採用しているから、たとえば都道府県の知事選や議会選で電子投票をやろうにも、市町村それぞれ方式が違うので使えない。市議選や町長選用の選挙システムだから住民投票にも使えないのだ。日本全国同じシステムにして、衆参の国政選挙であれ、市町村選挙であれ、電子投票でできるようにする。さらにネットや携帯電話を活用して、自宅に居ながらにして、あるいは海外から投票できるようなシステムの構築を目指すべきだろう。

 こうした拡張性をよくよく考えたうえで、住基ネットを活用するのが望ましいのかどうかを判断するのが本筋だ。

◆最大の問題は、いつ何の目的で持たせるか

 共通番号制度に関してゼロベースで考えるべき2つ目は、どのようなシステムでやるのかということ。番号については不規則な数字の羅列(現在は11桁)だけではなく、「声」や「指紋」などで個体を識別するバイオメトリクス認証の技術を導入したほうがいい。

 その際、くれぐれも心しておかなければいけないのは、システム開発にサイバーゼネコンを使わないことだ。広く門戸を開いて、たとえばシリコンバレーやインドの人たちにも参加してもらい、システムのアイデアを募る。もっと大胆な提案をすると、15~25歳くらいまでのサイバーマニアを集めて組織化、システムを開発すれば、恐らく開発費用はサイバーゼネコンを使った場合の100分の1になると思う。

 私が学長を務めるBBTでは、iPadの発売に合わせて授業でも活用できるように独自のシステムを開発した。外注すれば何十億円とかかったことだろう。それを社内の若手につくらせたところ、その100分の1でできたのだ。

 番号をいつ何の目的で持たせるかも議論が必要となる。たとえばデンマークの場合、この世に生まれた瞬間にIDが与えられる。親が誰かによらず、生まれた瞬間に独立した一個の人間として国家と契約を結ぶのだ。

 生まれたときに与えるのか、アメリカのように稼ぎ始めたときに納税番号として与えるのか、それとも成人して社会的責任が発生したときに番号を与え、それまでは保護者の番号でサブデータベース的に扱うのか。この問題を突き詰めていくと、これまで日本では憲法上も曖昧だった「個人と国家の関係」をどう定義するのか、戸籍との関係をどうするのか、今後も戸籍制度は維持するのか、という議論が避けて通れないことになる。国民データベースの議論をすると、戸籍制度そのものが法の下の平等を謳った憲法違反、という結論に至るはずだ。最近相続などの権利で問題になっている非嫡出子問題など、考えていけば自明の議論が日本では放置されてきたからだ。

 ゼロベースで行うべき議論の第三グループは、それだけの個人データを一つに寄せたとき、それを誰がどういう権利で使うのか、守るのか、という問題だ。

 実は現行の個人情報保護法では、プライバシーは完全には保護されていない。たとえば国税の査察捜査では、銀行などの金融機関に脅しをかけてターゲットの個人データを全部出させているのが実情だ。もう一つ、この共通番号制度に対しては、多くの日本人が極度のアレルギーを持っている。戦前の苦い記憶があるからだ。時の政府は国民の戸籍データを使って、壮健な二男、三男を狙い打ちするかのように赤紙(召集令状)を送りつけた前科がある。この問題があったために左派の人々が国民総背番号制度に頑強に反対してきた、という経緯がある。

 為政者や行政によるデータベースの悪用やプライバシーの流出を防ぐため、二重三重のセキュリティをかけるのは当然で、さらに立法、行政、司法の三権の上に「第四の機関」を置く必要があると私は考えている。

 20年ほど前に上梓した『平成維新』では、コモンデータベースを守るための組織をつくれと提言した。コモンデータベースの開示に関しては、その機関がすべてを管理して、この部分のデータはこの目的のためには使っていいという判断を三権から独立して行うのだ。時には行政に対しても、国会に対しても、裁判所に対しても毅然とNOを突き付ける。そのためには第四の機関は三権より上に位置していなければならない。

 国民全体のインタレストというものを代弁するに足るような良識ある公正無私な人物をオンブズマンに選んで、「人権院」のような第四権力を組織し、国民の大切なプライバシーの集積である「コモンデータベース」のお目付け役になってもらうのだ。このような3つの大切な視点から議論を重ね、国家と国民の関係を定義する作業をしなくてはならない。

 他国の経験、最新のICT(情報通信)技術、どういう国をつくりたいのか、という国家ビジョン、などの考察を抜きにして国民共通番号制度の議論を拙速にしては住基ネットの過ちを繰り返すだけだ。
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