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李大統領を竹島に上陸させたのは朴槿恵?! 退任後に逮捕されることへの「恐怖」
重村 智計
日経ビジネスオンライン 2012年08月30日版

#正しいタイトルは、「韓国大統領 李明博、退任後の逮捕を恐れ、竹島に上陸」だと思いますが。
■始まりは、指導者の判断ミス

 国際紛争が起こる大きな原因の1つは「指導者の判断ミス」という国際関係の理論がある。韓国大統領の李明博による竹島上陸は、大統領と側近たちの判断ミスで始まった。その背後には「日本はもう大国ではない」という日本軽視論がある。韓国政府内で中国派が台頭しているためだ。韓国の外務省には、米国派、日本派、中国派がある。日本派は主流の座から追い払われている。

 韓国の大統領府スポークスマンは、2012/08/09 15時に大統領府担当の記者を集め、翌日の大統領の日程を発表した。「明日10日、大統領閣下は我が国の領土である独島を訪問される。同行取材について説明する」。スポークスマンは「ソウルにいる日本人特派員や日本大使館に、情報を漏らさないように。もし、情報が漏れた場合は、あなたたちの携帯電話の通話記録やメールを調査し、処罰する」と繰り返した。

 この時点で、大統領府の高官たちは大変な外交問題になるとは判断していなかった。日本の反発はたいしたことないと考えていたのだ。日本がいかに重要な国であるか、現実を認識していなかった。韓国は、輸出品の重要部品や技術を日本に依存している。また、在日米軍基地なしには米韓同盟も機能しない。だが、その実感が指導者や政治家はもとより、一般国民にも欠けている。

 加えて李明博には、支持率の低下と、大統領退任後に逮捕されることへの恐怖があった。大統領の支持率は17%に下がり、体面と正統性を失いかねない状態にあった。韓国メディアは、2012/08/11に行われるロンドン五輪の男子サッカーと女子バレーボールの日韓戦に関心を向けていた。どちらも銅メダルがかかっていた。大統領は竹島を訪問して国民と選手の士気を高めれば、支持率も上がると考えたのだ。韓国では、反日には誰も反対できない。

■朴槿恵が大統領になると困る

 だが、竹島訪問の隠された最大の目的は、朴槿恵を与党セヌリ党の大統領候補にさせないことであった。ソウルでは、彼女が大統領に就任したら、李明博は逮捕されるとの観測が支配的だ。李明博の実兄である李相得は貯蓄銀行などから5000億円にも上る金銭を受け取ったとして、収賄容疑で逮捕・起訴された。この資金の一部が、大統領にも流れたと噂されている。

 李明博は、朴槿恵が嫌いだ。朴槿恵は苦労を重ね、政治家として成長した。2012/08/20にセヌリ党の大統領候補に決定した直後に、かつては政敵であった金大中 元大統領の墓を訪ねた。自殺した盧武鉉 前大統領の夫人も見舞い、和解の政治を演出した。韓国では政敵との和解が難しい怨念の政治が続いている。そのような中でなかなかの政治行動である。李明博は政治ができないから、彼女を取り込もうとせず、セヌリ党の大統領候補になることを支援しなかった。

 朴槿恵が大統領候補になることを妨害する手段として、彼女が親日である、との非難を高める方法がある。彼女の父、朴正煕 元大統領は、日韓条約を締結し竹島問題を棚上げした責任者だ。朴正煕のことを、親日で独裁者であったと宣伝することで、娘の朴槿恵候補も親日で独裁を助けた娘との攻撃を誘発する計算だったのだろう。韓国では、親日、独裁のレッテルをはられることは、社会的に抹殺されることを意味する。

 韓国の歴史を振り返ると、多くの場合、大統領が退任すると本人や家族が逮捕される。これは、韓国の政治文化である。大統領に頼み事をする人たちが、夫人、子供、兄弟に資金を提供するからだ。だから、民主化闘争をした金泳三と金大中も、大統領退任後に息子たちが有罪になった。儒教的家族主義が背景にある。

■竹島問題と慰安婦問題は関係なかった

 李明博は、竹島に上陸した理由として「日本が、慰安婦問題に対応しなかったから」と述べた。それなら「慰安婦問題に対応しなければ、竹島に上陸する」と、外交駆引きをすればよかったのに、そうはしなかった。つまり、竹島訪問と慰安婦問題は、関係なかったのだ。さらに、天皇の訪韓に触れ「亡くなった独立運動の犠牲者に、謝罪すべきだ」と述べた。そのうえ、野田首相からの親書を送り返すという事態まで引き起こした。こうした経過は、大統領が韓国内の反日感情を盛り上げ、朴槿恵が大統領候補になることを妨害するのに利用しているとしか見えない。

 ところが、8月下旬になって韓国の状況が変わった。竹島問題のおかげで、大統領選挙への関心が高まらないのだ。2012/08/25から、野党の大統領候補を決める予備選挙が始まった。けれども、まったく盛り上がらない。これは、李明博にとって困った事態だ。朴槿恵がセヌリ党の大統領候補になってしまった以上、朴槿恵を大統領にさせないためには、野党が盛り上がらないと困る。野党候補に有権者の注目を集めた上で、自分を逮捕しない候補を密かに応援し、対立する野党候補のスキャンダルを流すつもりなのだ。

■日韓は「きちんと説明する」関係へ

 韓国が竹島の領有権を主張するつもりなら、黙って放置しておくのが韓国にとって最良の政策である。韓国が事実上占拠しているのだから、静かにしていれば多くの日本国民は竹島問題を忘れてしまう。ところが、李明博がとった今回の一連の行動によって、日本人は竹島の存在に気がつき、「主権」「領土」という言葉をおおっぴらに語るようになった。日本が、国際司法裁判所への一方的な提訴を決めたことで、韓国にとって事態は後退したことになる。李明博の大失敗であった。

 これまでは、日本は韓国に「配慮」と「遠慮」を繰り返してきた。日本は、1965年の日韓基本条約の締結以来、歴史への反省と韓国の国内事情への配慮から、竹島の帰属について、双方共に自国領と言える玉虫色の扱いをしてきた。はっきり言わない日本的な「配慮外交」を、韓国国民はまったく理解しなかった。それは当然のことで、外交は主張しない方が負けだ。日本は、韓国に比べれば大国であるが、韓国を対等に遇した。歴史問題や竹島問題などを「穏便にすませる」ことを、「友好」と勘違いしてきた。政治的配慮を優先した。

 一方、韓国は、外交よりも「運動」――「反日運動」「歴史認識運動」「慰安婦運動」など――で日本の譲歩を得てきた。これからも多くの運動が生まれるだろう。日本は、運動に外交で対応--河野談話など--して失敗した。日本にも、責任の一端がある。多くの韓国民は、日本は歴史への謝罪もしないし、竹島に対する立場も説明してこなかったと理解している。

 韓国と感情的に対立し、喧嘩を売る必要はない。冷静な態度ではっきりと説明し主張すればよい。日本の指導者、外相、政治家には領土についてきちんと説明できる能力と、継続して主張する努力が不可欠だ。

 日韓関係は、「配慮」と「遠慮」の時代から、「丁寧に説明する」関係への変化が望まれる。「日本がものを言っても関係が悪化しない」友好関係を築くべきだ。
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