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神戸に関連する/しない新聞記事をスクラップ。神戸の鉄ちゃんのブログは分離しました。人名は全て敬称略が原則。

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日経BPネット 財部誠一の「ビジネス立体思考」

守るべき日本の農業とは何か <2010/11/15>を添削

 TPP(環太平洋経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)の議論が起こるたびに、日本では農業関係者から「絶対反対」の気勢があがる。既得権死守にしがみ付き、国益などおかまいなしで自己保身にだけ走る農業関係者たちのいつもの光景だ。なんの驚きもない。

■既得権益にしがみ付く農業関係者

 だが世界中が先を争って貿易自由化による自国産業の競争力強化にしのぎを削っている時代状況になど目もくれず、ひたすら自己保身にだけ走る農業関係者は醜悪であるばかりか、国益に対してその無責任さは犯罪的ですらある。

 そもそも彼らが言う「守るべき日本の農業」とは何なのか。

 低廉な外国産の農産物の大量流入で農家が立ち行かなくなり、ただでさえ低い食料自給率も急落、食料安全保障の上からも関税撤廃など断固として受け入れられない、と彼らは主張する。

 農業の実情に疎ければ、上記の字面を眺めていると、それなりにもっともらしい印象を与えるかもしれない。だが、これほど中身の無い、古色蒼然とした反論はない。

 いま日本では米余りで米価が下がり続けている。かつては1俵(60kg)あたり2万円だった米価が、需要の減少から下がり続け、昨年は1万2000円まで下がった。コメ農家の窮状を見事に票田と見た当時の小沢民主党は、「農家への戸別所得補償」で政権交代実現の一助としたが、米の流通業者はそれを見逃さなかった。激しい値下げ要求が起こり、今年の米価は1万円を割り込んだ。地域によっては8000円台まで落ち込んでいる。要するに戸別所得補償分をまるまる値切られたようなものである。

 減反政策をやらないよりもましなのだろうが、減反政策が米価下落の歯止めとして機能していないことだけは明白だ。

■コメの小売価格はさほど下がっていない

 ここで冷静に考えてほしい。かつて60kgあたり2万円していた米価が半分以下まで値下がりしているのに、私たちがスーパーや米屋から購入しているお米の値段は半分になっているだろうか。そんな話は聞いたことがない。要するに米農家の手取りは激減しているが、中間流通や小売りが値下がり分を利益に換えているだけで、米価下落のメリットは消費者には届いていない。

 米農家には我々の税金があの手この手で投入されているというのに、米価下落で米農家の収入は激減、だが下落メリットは消費者に届かない。

 全国の農家の大半を仕切っている全農や地域ごとの単位農協が米の流通に果たしている役割のひどさは目にあまる。農産物の流通における彼らの役割ときたら、それはもうただのブローカーにすぎない。農家の生産物は全農や農協がいったん買い取っているようなイメージがあるかもしれないが、そんなリスクを彼はまったく取らない。

 全農や農協の機能は証券会社のようなもの。株の売買注文をしたい投資家と証券取引所とを仲介して、手数料をもらうだけである。2万円の米価が1万2000円になろうが、9000円台になろうが、リスクはすべて農家が負う。全農や農協は手数料収入を取り続けるだけである。しかし巨大化した全農、農協の経営は農産物流通の手数料収入などでは到底賄えず、全農、農協の屋台骨を支えているのはいまや金融業だ。農家に対する融資や保険業で生計を賄っている。

■TPP推進を機に農業を改革せよ

 TPPの関税ゼロでいったい誰が困るのか。最大の被害者は全農、農協だ。だが彼らのために日本の産業がグローバル競争の中で危機にさらされる理由などあるわけがない。総論賛成、各論反対の政治家たちは自分の選挙優先、国益無視に走っているだけである。

 さらにいえば生産者も悪い。農家はみな無垢な善人だなどと思っていたら大間違いだ。高速など道路の開通、再開発やスーパーの出店など、土地の値上がり目当てに農地を資産運用の対象としている農家がどれほど多いことか。自分で生産ができない、あるいはやる気がなくなったのなら、せめてやる気のある農家に農地を貸してあげればいいのに、それすらやらずに放置。耕作放棄地として荒れ放題にされた日本全国の農地が埼玉県ほどの面積にまで拡大している事実がすべてを物語っているではないか。

 先日、福井県で大規模な農業をたった一人で実現している生産者、片岡仁彦さんにお目にかかった。耕作面積は50ha。中古の農機を全国から安く手に入れ、すべて自分で修理、手入れをしている。機械化で農業の大規模化を実現したわけだが、その現実は過酷だ。

 農地法は度々改正され、農地の貸借どころか、売買まで相当に自由化したものの、その実態はお寒いばかり。耕作放棄地が急増していることからも分かるように、農家自身が手放さないのだ。少しでもたくさんの農地で生産活動をしたいと願っている生産者を苦しめているのは、貸与せず耕作放棄を選択する農家が多いことだ。「使わないなら貸してくれよ」といくら頼んでも、いったん他人に貸してしまうと、売却でぼろ儲けのチャンス到来時に厄介なことになるというのが主な理由だ。

 私は福井県の片岡さんの畑を取材して驚いた。彼が借りている畑はあちこちに点在し、畑と畑を行き来するのに、クルマで20~30分もかかってしまうのだ。そのたびに片岡さんは農機具をトラックに積み込み、場合によっては自宅に立ち寄り、農機具を乗せ換え、また20~30分かけて次の畑に向かう。恐ろしいほどの手間暇がかかる。

 その片岡さんが地元でのこれ以上の農地獲得に見切りを付けた。来年は北海道で50haの農地を借りられることになった。

「同じ50haですが、北海道は大規模な農地ばかりですから、福井の現状と比べたら生産性が3倍ほどになります」

 種まきや収穫の時期が異なるから北海道での生産が可能になる。片岡さんは種まきや収穫期など、そのつど福井からフェリーで大型農機を3台ほど北海道に運び込むそうだ。

■関税がなくなれば輸出すればいい

 耕作放棄地拡大に歯止めをかけるためには株式会社などの新規参入が一般的には話題になるが、片岡さんのような生産のプロに農地を集約するだけでも日本農業の生産性は飛躍的に高まる。

 また山形県庄内には米の輸出を本格的に行っている農業法人がある。この法人のトップはTPP論議についてこう言ってのけた。

 「関税なくなるんでしょ。どんどん輸出すればいいじゃないですか」

 日本農業は世界でも高い競争力を持っている。貿易自由化のなかで間違いなく花開くポテンシャリティを日本の農業は備えている。TPPのネガティブキャンペーンをやる暇があるなら、能力とやる気のある生産者が思い切り農業に打ちこめる環境整備に農業関係者は力を注ぐべきだ。

 だがそんなことは100年たっても起こらないだろう。自己保身に勝る改革エネルギーが全農や農協から沸き上がってくるはずがない。だからこそTPP推進なのである。TPPは日本農業滅亡ではなく、滅亡寸前の日本農業の腐った既得権構造に大ナタを振るう最高の動機になる。
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